「たしかに……あの場に春樹がいたら、夏葉は県警に引っ張っていかれることはなかったかもしれないな」 リュウくんが言った。「ものすごい偶然だとは思ってたけど……やっぱ、マリアのしわざか」キャスキットソン
先生は、じっとわたしと春樹を見つめた。「そして、このことはとても大きな事実を、姫宮兄妹それぞれに認識させることになった。兄にとっては、とうとう恐れていた事態が起きた――父親から人狼や吸血鬼について知識を得ていた彼には、吉村渚の首が妹の机に置かれることは、敵が憎しみではなく愛情を妹に抱いたのだという、最悪の事態そのものだった。単純に夏葉さんが利用されるよりもっと悪い。春樹くんは夏葉さんを絶対に奪われたくない、守りたい、そのためにはこれから、一之瀬マリアと本格的に戦うしかない――しかし、そうするにはおそらく、吸血鬼と人狼の対決である以上、多分に血なまぐさいことになる。そうなったら、か弱く、血に対して深いトラウマをもつ夏葉さんに、じぶんが嫌われるようなことになりはしないか？――恐怖や葛藤、本能と理性のせめぎあいに春樹くんは苦しむ。そして、妹の夏葉さんにとっては、じぶんが一之瀬マリアに恋されるなんて悪夢でしかなく、そのせいで吉村さんが死んだなんて、という悲しみと……一之瀬マリアを最初から怪しいとにらみひそかに調査していた、そしてそのことをじぶんは伏せられていた、ということで生じた、兄への不信感――しょせんじぶんは、兄や一之瀬マリアは違う生きものなのだ――ふたりは敵対し、互いをライバルと認めあっている、かつ、双方ともその気になったら人間なんか簡単に殺せてしまう存在なのだ――そんな思いを植えつけられることになった。鉄壁の絆をほこっていた姫宮兄妹が、生まれて初めて、じぶんたちがいかに違うか、考え方も性格も種族もなにもかも根本的に違うか、ということに直面した。そして、一之瀬マリアは、ふたりの状況をつぶさに観察しながら、兄に対する夏葉さんの疑念をあおった。春樹くんの評価を落とすことで、じぶんの評価アップを狙った、というのがわかりやすいかな。また、夏葉さんはそうはいっても、家族全員が人間ではないという暮らしを赤ちゃんのころからつづけてきた、ある意味やはりふつうじゃない、肝のすわった女の子です。マリアさんとも表面上は穏やかに学校生活をおくり、なぜ吉村さんを殺したのか、なぜそうしなければならないのかというマリアさんの考えをきくうち、彼も春樹くんも、根っこは変わらない、自分以外の人間じゃない生きものに過ぎないのではないか、という思いをもつようになった」marc by marc jacobs 時計
「ええ、そうです。そして、夏葉さんがひとりきりで惨劇の場を目撃し、警察に連れて行かれる――なにもかもが計算どおりだった。マリアには、そうはいっても夏葉さんは逮捕されたりしないだろうという打算があり、かつ、ふたりにむかっての脅迫の意図もあった。その気になればじぶんはここまでできるのだ――という」キャスキッドソン ダブルジップバッグ
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「そこがたしかに説明しがたいところなんだけど」 小山内さんの指摘に月生田先生は腕組みし、「一之瀬マリアの夏葉さんに対する思いには、つねに相反する感情がつきまとう。それは、姫宮春樹くんへの敵対心だ。マリアは夏葉さんに対して、誰かを殺して捧げるほど愛している、と吉村渚の死をもってアピールしようとした。あるいは単に、じぶんの力をみてほしいという単純な自己顕示欲を発揮した。だけど、裏にはいつも姫宮春樹への憎しみがある。姫宮春樹を苦しませるには、姫宮夏葉を苦境にたたせることがいちばん効く――だいじな妹が殺人の容疑者になる。それに、姫宮家の事情もあった。姫宮くんは人間のふりをしているから、警察という彼ら秘密の家族の大敵とぶつかるはめになるのは大きなプレッシャーだ。だから、マリアにとってこの作戦は、姫宮夏葉へ求愛し、かつ姫宮春樹を苦しめる、二重の意味でのうまい作戦だった。もちろん、前日に学校の電気系統をショートさせたのも、一之瀬マリアの仕業でしょう。休み明けにテストのある三年生を市民ホールに隔離し、春樹くんと夏葉さんをひきはなしておいた。もし姫宮くんがいっしょに登校していたら、昇降口を入った時点で、J組にたちこめていた血の臭いに彼が気づいたかもしれないから」gucci バック
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